side Y

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「あっ、でも、出来ないからダメって言うなら、無理になんて言わないし。」 さっきの強い口調で俺の言葉を遮った美代ちゃんはどこに行ったのかと思うくらいに弱弱しい口調。 しかも、出来ないからダメってさ。 誰かに言われたことがあるから、そんなことを言うんだ。 元彼。 絶対に。 ムカつく。 俺の中のドロドロの感情が流れ出しそうになる。 その気持ちをグッと抑えて、冷静に言ってやる。 「せっかく行くならお泊りしたいなって思ったんだけど、出来ないからお泊りしに行っちゃダメ?」 微妙な間。 「嬉しいです。ぜひ、おいでください。」 片言みたいになってる。 その声を聞いて、笑った。 一緒にいたら、それは抱きたい。 だけど、抱けないからって一緒にいられる時間をなくしたいわけじゃない。 「美代ちゃんが嫌じゃなければ、ギュウギュウして一緒に寝ようね。」 「嫌じゃないです、ぜひ、お願いします。」 ときどき、敬語になる美代ちゃんがどんなときに敬語になってしまうのか。 動揺してるとき。 気が付いてるよ、俺。 もっと、動揺して、俺のことを考えてればいいんだ。 「あっ、でも、ギュウギュウして寝たら、多分、ちょっとは手を出したりするかも。嫌ならしないけど、色々させてね?」 「あっ、は、はい。」 ふふふっ。 電話の向こう側でアタフタする美代ちゃんが容易に想像できる。 「じゃぁ、いっぱい一緒にいたいから土曜日の午前中に行くからね。」 「うん、待ってる。洋ちゃん、ありがとう。」 「うん、おやすみ。」 2週連続のお泊りは、自分の決めたルールに反するけれども、一緒にいられることが嬉しいのは、間違いない。 電話をする前よりも、もっともっと週末が楽しみになる。
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