side Y

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毎週、金曜日の夜は趣味の時間。 美代ちゃんと会う前の日にはお菓子を作るのが定番になってる。 俺の作ったお菓子を美味しそうに食べる姿が見たいから。 本当に、美味しそうに食べるし、実際に美味しいを連発してくれる。 そして、笑って、また作ってねと言われたら作らないわけがない。 明日は美代ちゃんのお家だし、小分けにできるクッキーみたいな物でなくても大丈夫なはず。 まだ残暑厳しい9月だけれども、俺の家から美代ちゃんの家までは1時間位。 その間、冷房の効いた電車の中にいる時間もけっこうあるし、保冷剤を入れておけば、きっと悪くならないだろうとロールケーキを作ることにした。 しっかりとツノをたてたメレンゲ。 卵黄もマヨネーズ状になるまで、しっかりと泡立てて、それを合わせる。 メレンゲが潰れないように最大限の注意を払ってしっかりと混ぜ合わせて、小麦粉を投入。 もちろん、メレンゲを潰さないように、手早く混ぜ合わせる。 この混ぜ合わせるところが、すべての肝だと俺は思う。 どれだけ他の工程をうまくこなしても、ここがダメだと出来上がりはイマイチ。 逆に言えば、ここさえきちんと押さえておけば、まず失敗することがない。 ケーキ作りの一番のポイント。 それから、天板に生地を均一になるように流し入れて、一度だけ空気を抜くためにバンっと天板を作業台の上に落としてオーブンの中に入れれば、あとは待つだけ。 オーブンに入れたら、電話タイム。 「もしもし、洋ちゃん?こんばんは。」 美代ちゃんの声を聞いただけで顔が綻ぶ。 「うん、こんばんは。体調はどう?」 「・・・覚えてたんだね・・・この前の会話。やっぱり、今日さ、なって、明日はゆっくりできたら嬉しいです。」 そっか。 お泊りするのは、やぶさかではない。 「会えるだけで嬉しいし、美代ちゃんはゆっくりしてていいよ。俺、料理も好きだし。それにさ、美代ちゃんの傍にいると、落ち着くから、充電させてね、一週間分。」 「うん、そう言ってもらえると嬉しいね・・・。会えるんだね。」 微妙な間と、会えるんだねの言葉に苦しくなる。 会いたくないわけないのに。 俺がお泊りする目的は、抱きたいからだけじゃないのに。 二人で過ごす時間が、本当に癒しになってるのに。
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