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ちぃくんの住むマンションが近づいたあたりで、ぐんぐんと歩調を早められて、私はつんのめりそうになるのを必死に気を付けて歩いた。
いつも私に気遣ってゆったりと歩いてくれるから、こんなに慌てさせられたことなんて一度もない。
少し息が上がってくるのを感じながらちらりと見上げてみたけれど、依然として私のほうを見返してくれる気配のないちぃくんに、心の中で嘆息した。
ちぃくんが怒ってることも、その事情も、なんとなくわかる。
けど、それは私だって同じだ。
ただ私はすでに用件が終わった状態で、ちぃくんはこれから用件があったらしい……というその違いのみ。
お互い、少しばかり不愉快になってしまうのは致し方ない。
それでも、お互いに何か疾しいことがあったわけではないことは、十二分に分かるはず。
……なのに。どうしてこんなに怒っているの?
ガチャ。
開けられた玄関のドアをくぐるのが怖い。
でも、背中をトンと押されると、有無を言わせない力が加えられているようで、私は一歩を踏み出してしまうしかなかった。
そのままさらにぐっと押されて、ガチャリと鍵のかかる音がすると、心臓がどきりと嫌な音を立てるのが確かに聞こえた気がした。
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