月の晶楼

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 ――――そう。其れは九月。中旬の事であったと、彼は記憶している。  とは言えソレは、彼にとって、其の時間軸が曖昧と化す程に年季の入った出来事では無かった。寧ろ、赤色の塗料も褪せぬ間の以前の事であった。  しかし、中旬と言う表現を用いるのは、彼を鑑みるに全く的外れでは無く、正鵠を射ていると言う事すら出来る。  彼にとってソレは一枚絵の様なもので、時間軸だとか、そう言った雑多な――整理番号の様な物は些細なものであったのだ。  言うなれば、在るがままが全てで。  そして全てが、在るがままで終わっていた。  空には月が在って。  月の下には我々が居た。  ――コレは、そんな物語だった。
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