第一話 お前があんな顔するから

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“焦る” まただ、また今日も辞書で調べてみた。 違うんだよな、この気持ちはそういうのじゃないんだよな。 なんでだろう。 あいつといると、なんでか焦る。 確かにちょっと顔は、男にしては綺麗なほうなのかな。 だって、睫毛ってあんなにきらきら揺れるのか。 はは。きらきらだって。 きらきらなんて言葉、何かの歌で聞いたくらいだ。 そういえば、魚ってきらきらしてるか。 あとなんだろ、やっぱきらきらって言ったら、星だよな。 いやいや。 そんなことはいいんだって、そうじゃないんだって。 はあ。 もう寝よ。 あいつの夢見れるかな。 だから、違うって。 これは、ただ、焦ってるだけなんだ。 岸と俺は、幼馴染っていうか、ただ家がちょっと近いだけで。 今まであんまり話したことなかったのに、 小学校の時に家の前で鍵見当たらなくてあたふたしてた俺を、 自分の部屋の窓からぼーっと見てたお前。 目が合った瞬間、さらっと手招きしたお前。 母さんが仕事から帰ってくるまで、よくわかんない虫の話を永遠をしてたお前。 頭いいんだねと言うと、頭がいいんじゃなくて、興味あるだけなんだよと、 すました顔で笑ったお前。 興味か、興味があればお前は、そういうすました顔をするのか。 はにかむのか、そうなのか。 その時だ。 その時に、俗に言う、恋に落ちたのかもしれない。 と、 自分が女だったら思うんだろうなと、幼いながら察知した、 風の匂いが心地のいい夏の夕方のことだった。
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