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「男といるほうが楽じゃん、楽しいし。
それに、彼女なんてできないよ、俺じゃ。」
そう言って笑う岸を、俺は目の前で見てる。
知らねえの?教室の隅で話すお前の声に、
女子が秘かに耳を敏感に震わせているのを。
そんないかにも女に困ったことないんだよ的な外見しといて、
そんな鈍感な性格だから、女子が余計に盛るんだろうが。
「澤ちゃんはいないの?好きなやつとか。」
そういえば、いつから澤ちゃんって呼ばれてるんだっけか。
「澤ちゃんって呼び方、なんかかわいくね?
それに、さ行の響きって好きだわ、俺。」
いつかお前に言われたっけな。
でも、下の名前を呼ばれると、女ってきゅんとくるんだよな、おそらく。
でも、名字にちゃん付けも、案外きゅんとくるんだぜ。
いや、知ってるよな。
つーか、好きなやつに名前呼ばれるだけで、きっと昇天・・・
「ねえ!」
「へ?!」
不意の声に思わず体が反応したと同時に
出た裏返った声に、なんだか恥ずかしくなった。
「ねー聞いてんの?
だーかーらー、好きなやつとかいないの?
澤ちゃん前に告白されてなかったっけ?」
そう言って覗き込む岸の顔をまっすぐ見れない自分がやけに照れくさかった。
「あれは別に告白とかじゃ・・・。」
あれはお前に好きなやつがいねえか聞かれただけだっつーの!
はあ。
これだから、鈍感なやつは困る。
「髪の毛もさらさらしててさ、キレイ系っていうよりかわいい系?
いいじゃんいいじゃん。一度デートとかしてきなよ。
俺が尾行してってやるからさ。」
「はあ?なんでお前が付いてくるんだよ。
しかも尾行ってなんだよ。」
「だって、もし何かあったら心配じゃん。」
空気が一瞬、とまったように感じた。
俺だけだけど。
「何かって?
別に何もしないし、そんな盛ってるわけじゃないし。」
「違くて。」
岸は少しうつむいて、それからすぐに
まっすぐな目線で俺を指しながら言った。
「ん?」
なんだろう、見間違いかな。
岸の表情が一瞬、締まったような気がしたのは。
「外見はクリアしてても、
中身が澤ちゃんを傷つけるような女の子だったら、嫌だなって思ってね。
澤ちゃんは、大切だからね。ふふ。」
そう言った5秒後にはいつもの顔に戻った気がした。
ふふ。ってなんだよ。
なんなんだよ。
またそういう顔して。
また女子が口元見てんぞ。
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