囚われの小鳥は愚かに鳴く

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翌朝、裳着の祝祭まであと二日。誰もが慌ただしく城内を駆け回っていた。内装を絢爛にするため非番の兵士まで駆り出され、明日到着予定となる賓客のための客間や待遇の最終的な確認、城内警備の段取りや避難路の確保等々念入りに行われる。 自室からこっそり外の様子を伺ったジャーシャは慌ただしく動く女中女兵を覗き見ると静かに戸を閉じた。いつもならこっそりと女中部屋へ忍び込み、身分の差を越えてサキと接する機会を得ていたのだが、サキも他の女中同様に忙しなく働いているのだろう。下手に冷やかす気にもならなかった。 窓辺に寄り掛かり、今日も晴れ渡る青空を見上げる。今日も太陽が南中するのをただ見守るだけなのだろうか。今日もただ呼吸をするだけのものに成り果てるのか。 日々の糧を得るのに必死な貧民に比べ余りに贅沢な暮らしをしている自覚はあるが、生きている実感が無い生活も辟易している。彼女はこの世間との認識のずれを倦厭していた。城内を散歩しても、姫様は部屋でおとなしくされていますようーーーの一点張り。何の為に生きているのか分からない。成人しても政略のための結婚により一生お飾りの人形と化すだろう。 ーーー父は私に愛を感じることはあるのだろうか。 モロには皮肉だが、彼女は度々そう考えることが多かった。ろくに構ってもらうこともせず、話すこともなく。母を戦争で失くした今となっては親の愛情をしかと感じられる瞬間が彼女に訪れることは無かった。 上の三兄弟と侍女サキだけが彼女の痛みを知っていた。特に年が近い三男ラージェは彼女を可愛がり、幼い頃からサキを交えて遊んでいた。ジャーシャもラージェに一番好感を抱いた。 しかし三兄弟も仕事に追われとても会いに行くには気が引ける。今日予定されている儀式の模範練習である夕方までは時間があり、彼女は暇を持て余す他なかった。
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