囚われの小鳥は愚かに鳴く

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ジャーシャは窓の外を見下ろした。曲がりくねった商業街の通りに何やら賑やかな馬車を引いた一団が見受けられる。そういえば噂を聞いたなーーーとジャーシャは回想した。確かパーモ一座。兄のラージェが元服した時も街を賑わせていた、首都を中心に活動する演劇や大道芸の一座、と記憶している。 人形に変装した一座の一人が余興を繰り広げると集まった町衆がどっと湧く。彼女に遠くの声は聞こえないが動きでよく分かる。同時に束になった風船が景気よく空に放たれ、子供が小躍りしているのが見えた。ジャーシャは際限なく上昇していく風船に思いを馳せる。私もあんな風にどこまでも自由に翔べたらーーー。 「ジャーシャ、いいかい」 不意にノックが響き渡った。この声はーーー。少し興奮してジャーシャは扉を開けた。第三王子ラージェだった。 彼女を見て微笑むラージェを見て、ジャーシャは少し落ち着けた。整えられた金髪に少し無邪気さが残る顔立ち。いつもこの人の周りには颯爽とした風が吹いているような空気があると彼女は感じていた。 「ラージェお兄様、なぜこちらに?お仕事の方はもう...?」 ラージェは首を降った。 「いや、まだなんだ。でもいつもお前は退屈そうにしているからな」 ジャーシャは少し紅潮してうつむいた。 「退屈だなんてそんな...。皆が忙しくしている時分、そのようなことは口が裂けても言えません」 そう言うとラージェは笑ってジャーシャの肩に手を置いた。 「まあそう自分を悲観しないことだ、ジャーシャ」 彼はジャーシャの目を見て続ける。 「僕は願わくばこの平和が続いて欲しい。出来れば他国の、特に帝国のことなんて考えたくもないよ。帝国は愛する母上を奪ったからね。だから僕も他の兄上達も平和が壊れることないよう力を尽くしている。だからジャーシャ、きっと君が自由に街を歩けるような日をつくろう。それまで辛抱だ。いいね?」 ジャーシャがゆっくり頷くと、ラージェはまた微笑んで去った。 果たして本当に来るだろうか?ラージェの平和構想は素晴らしいが、ジャーシャのこれまでの生活を顧みるにあまり期待は出来ないと猜疑的になってしまう。大好きな兄の言うことさえ信用できない自分に段々と嫌気が差してくる。月の痛みが近いことと合間って苛々が過ぎるかもしれない。
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