囚われの小鳥は愚かに鳴く

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この日の昼も味気ないミュシャの実の付け合わせ。聖地カーラーンに祀られる神に実りと豊穣を感謝しつつも半分程残し、皿を下げにきたサキを再び困らせた。 「これでは神の天罰が下り兼ねませんよ」 そう漏らすサキを彼女は無視した。黙って皿を回収するサキを彼女は不機嫌な後ろ姿で見送った。午前中とは打って変わって誰とも関わりたくない気分でいた。世界にたった独りぽっちになった気分でいた。その方が何か自分が救われる気がしたからだった。 窓の外を見下ろして食べ物を縋る物乞いを見て、ああ自分の悩みは贅沢な悩みだったと自分を卑下することも嫌いだと気付いた。人それぞれ等身大の悩みがあると気付いた。 そうこうしている内に泡沫の眠りに付いていたようで、ジャーシャはノックの音で目を覚ました。 「ジャーシャ様、礼拝堂にお越しください。じきに下見等々始まりますゆえに」 名も知らぬ兵士がそう告げると、その兵士の警護の下、城は上層、礼拝堂へと歩いた。 レンディア城内の礼拝堂は他国の礼拝堂に比べより聖教に重きを置いた敬虔な造りになっている。二階層ぶち抜きで天井は高く、長椅子は均整に並べられ、聖教関連の蔵書が壁と言う壁の本棚に詰め込まれている。その蔵書数は聖地に引けをとらない。説教台の後ろ、舞台上には大きな石造りの像が立っていて、唯一神が慈悲の微笑みを湛えていた。 この世界の神はただ一人だけ。聖地カーラーンを発祥とした聖教、その中でこの地を創造したと云われる名も無き神である。名が無いのは誰も神の名を伝え聞く事がなかったからだ。 かつて神は混沌の海に沈んでいたこの大地を聖なる光の海へと昇華したと云われ、その御力に畏怖の念を抱いた人間は歴史上誰も神に名を授けるなどという恐れ多い行為はしてこなかったのだ。
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