囚われの小鳥は愚かに鳴く

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長椅子には既に父王モロ、そして長兄ラティクスが座っていた。ジャーシャが近付くとラティクスは立ち上がり、ラージェと同じように肩へ手を置いた。 「いよいよだな。成人したお前の働きに期待しよう」 「ありがとうございます」 こんな私に何ができるのかーーージャーシャは抑揚無くそう答えると舞台上に上がった。ここに司教が立ち、舞台下で跪いたジャーシャは成人の洗礼を受ける。たったそれだけの流れだ。そして正当な母から娘への相続として”絶海の蒼”を受け継ぐ事となる。 絶海の蒼とは代々レンディア王家の女性に伝えられる宝玉で、核となる石言葉には子孫繁栄や一族安泰の意味が込められる。歴史的価値は非常に高いが、実用性は自身がレンディア王家の者だと証明することくらいしかない。 「儀式の流れは大体理解したであろう」 父王モロが立ち上がって言った。声から疲れが聞き取れる。 「はい、お父様」 「ならば部屋に戻りなさい。ここも最後の準備に取り掛かる」 数ヶ月振りの父娘の会話があるかと期待していた自分が愚かだった。ジャーシャは激しく自分を戒めた。あの人に実の子であるかなど関係無いんだわ。頭の中は国の運営で一杯。やはり私のことは政治の道具程度にしか思っていないーーーそこまで考えてジャーシャはやめた。悪い方に事を傾けて考えるのは昔からの悪い癖だ。ジャーシャは一礼するとそそくさとその場を去った。 「父上も素直じゃないですね」 ジャーシャが見えなくなってからラティクスが言った。 「これが施政者なのだ」 そう言い切った王の顔は一回り老成したようだった。
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