17人が本棚に入れています
本棚に追加
ジャーシャは傷心のまま自室に戻った。先導する警備の者が心配して駆け寄っては宥めてくるが、彼女はいらぬ心配と遠ざけた。裳着が近付くにつれて自分の人間性が薄まっていくような気がした。ただ生まれが良いだけの盤上の駒になったかのような気分だ。
自室に戻ると何度も窓から鳥を見てはうなだれを繰り返した。そして夜も更け、夕食の野菜の煮付けは少し残した。またも不満そうなサキをジャーシャは邪険に扱った。
「ジャーシャ」
何年かぶりに呼び捨てで話し掛けられ驚いた彼女の頬に平手打ちが飛んだ。彼女が目を丸くしていると幼馴染としてサキは顔を近付けた。
「いい加減我儘はおよしなさい。陛下も王子達もそれは望んでいない。きっとあなたを幸せにできるように望んでいるの」
打たれた頬に手を当て、頭に血を登らせ、ジャーシャはサキに噛み付く。
「サキに何が分かるっていうの!私なんて道具と一緒なのよ!政治の為の道具!道具なの!!」
もう一度ジャーシャの頬に衝撃が走った。
「分からず屋!道具な訳ないでしょう。陛下が道具としてあなたを使いたい訳ないでしょう!かつて女王陛下があなたにそう接した試しがあるの?陛下も同じよ。自由な暮らしを与えてあげたいのよ!」
ジャーシャはサキに掴みかかった。女王エルは幼いジャーシャに確かな愛を注いでくれた。ーーーだけど母様と父様は違う!
「じゃあ何故お父様はお母様のようにしてくれないのよ!」
「陛下はジャーシャよりも自由のない世界に生きてる!わかるでしょう?だからお願い、もうこんな子供染みた真似はやめて…」
掴みかかった手が離れた。半分泣きじゃくりながらジャーシャは声を絞り出した。
「じゃあ私はどうすればいいのよ…」
立場を利用され、駒として使われることーーー。
「自分で見つけるのよ。でもこれだけは言える。あなたは人に利用される為に産まれてきたわけじゃない。きっとあなたにしかできない仕事があると思う。だからもっと自分を大切にして」
そう言ってサキは残された料理の皿を引っ掴んで去って行った。
最初のコメントを投稿しよう!