囚われの小鳥は愚かに鳴く

3/18
前へ
/187ページ
次へ
レンディア王国第一王女、ジャーシャ・ヴィル・レンディアは溜息をついて窓の外を見下ろした。夕暮れの空の下で城下町が賑わいを見せている。彼女の成人の祝祭準備に向けた賑わいのはずが、ジャーシャ自身は酷く不機嫌な様子で顔をしかめた。盛り上がっているのは国民ばかり。自分など国民が湧き立つための材料に過ぎない、そんな不満を抱えて。 ジャーシャは殆ど王城の外に出してもらう事がなかった。数年前に帝国タルタロスが成立するまでは大陸に都市国家が乱立しており、王族の女子は政略結婚に有利と考えられていた名残りから、傷付けられないように慎重に扱われていた。 島国レンディアは独立を保ってさえきたが、帝国の属領になって未だ大陸は覇権争いが絶えず、都市国家同士の戦争、王族の暗殺など諍いが絶えない。 じきに産まれて十八年、不自由な暮らしは何一つ無かったし、母は幼い頃に早逝してしまったが父や兄、城に住まう者は皆優しくて好きだ。ただ一つ城外に出ることは許されなかった。それだけが彼女の不満だった。 彼女は立ち上がると自室に置かれた姿見の前に立った。その姿は紛れもない美姫であり、溶けるような髪は柔らかい銀で容姿端麗と称されるに相応しい。しかしその美しい顔だけが曇っていた。十八ーーーすなわち成人して一体私の何が変わると言うのか?今まで通り軟禁同様の生活を強いられるのか? 彼女は苛立ち、闇雲に部屋を往復した。兄達は自分より若い時には既に公務として諸外国へ赴いて来た。国民は国家を成立させるべく働いている。しかし、自分はただのうのうと生きているだけではないか。何回そう自分に言い聞かせて来たであろう。何回父に嘆願したであろう。 不意に扉を小突く音が響いた。扉が開き、ジャーシャと同じ背丈の黒髪の女性が入ってくる。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加