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「また拗ねていらっしゃったのですか?」
優しい面持ちで侍女のサキは言った。ジャーシャは不貞腐れて悪態をついた。
「拗ねているんじゃない」
侍女であるサキは幼い頃に王が貧民街から連れてきた。飢える直前だったようで王への感謝は絶えることがない。そしてそのまま同い年のジャーシャの侍女として十年以上一緒に過ごした彼女は、ジャーシャにとっての唯一無二の友と言っても過言ではなかった。
サキには姉がいた。姉は妹を養うため子供ながら働いていたが、姉は王と行くことを拒んだそうだ。それ以来、たまに会いに帰るものの居辛い空間らしく、姉の事は余り話たがらない。
「あなたは帰らないの?サキもじき十八を迎えるでしょう。帰って家族に祝ってもらった方がいいよ」
サキは少し寂しそうに微笑んで首を振った。
「貧民街に帰っても姉しかおりませんし、この忙しい時期に帰るわけにも参りません。それに、そもそも貧民街では成人など祝う慣習がありませんよ。そんなことより姫様、また食事を、余されたんですね。ミュシャの実もアコダの葉も半分以上残されていますよ」
机の上に並べられた葉物の野菜を見て侍女は顔をしかめた。確かに薄味で淡白な盛り合わせだが、食べない事には精もつかないし、何より貧民街で飢えて育った彼女にとって食べ物を粗末にすることは許されざることだった。
「ごめんサキ。でも一ヶ月近く同じ献立で少し飽きてしまって…」
「大事な式典の前に倒れられては困りますよ。姫様は私の姫様であり、そして私の親友です。心配しているのですよ」
サキはジャーシャの我儘を許容することができた。幼い頃から王女と暮らしていると、彼女が与えられた豊かさと引き換えに、彼女はあらゆるものを我慢しなければならないことを知っていたからだ。すなわち、彼女は身分の違いが苦しみと関わらない事を知っていた。
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