囚われの小鳥は愚かに鳴く

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今や大陸随一の軍事力を持つに至った帝国タルタロス。和平条約の調印により相互への武力的不可侵が定められたが、タルタロスの軍事力を持ってすれば、大陸南方、砂漠の強国ゴンドアや大陸北方で永世中立を堅守する聖地カーラーンの介入を無視してレンディアを攻め落とせる可能性さえ持ち得るとモロは恐れていた。 帝国はまだその神秘を明らかとしていない魔導の力を持っている、と各国からの噂が絶えない。ほんの噂と言えど警戒するに越したことは無い。 「陛下、注意を絶やすことなきよう。私は和平条約の調印式で、皇帝が持つ冷徹な顔を垣間見た気がします。あの男には躊躇や隙、油断などはありませぬ」 モロの回想でも同じ意見に辿り着いた。煌びやかの欠片も無い黒い装束を着た彼の青白い顔と髪がーーー長く足元まで垂れるかのような長い髪が目から離れなかった。彼は誰にも屈するように見えず、また誰をも恐れていないように見えた。 「そなたの言うとおりだ。ジャーシャがもたらす光に反し、影を落としかねない者の存在をよく覚えておこう」 そう言って王は誰もいない廊下を先導した。とはいえ、帝国にとって和平条約はレンディアを契約上押さえ込むための一時凌ぎであろう。帝国が更に周囲の都市国家を滅亡、吸収を繰り返してより強大な存在となる前に何か手を打たなくてはならない。 「聖地の人間は当てになろうか」 王の質問にタダンは顔をしかめた。 「聖地が何者かに対して武力を行使することが、この歴史で何度あったでしょうか?」 ーーー聞くまでもなかったか。モロは少し後悔して眉を掻いた。 聖地カーラーンは永世中立の立場を取り独自の軍事力を備えている。帝国をも凌ぐ力、即ち神殿騎士団の存在である。 北方の寒冷地に聳える山々、その崖の上に建つカーラーン神殿に篭る最強の騎士団。彼らの力は傑出しており、聖地に於ける最高司法機関により異端とされた者、組織、国は例え犬一匹であろうが神殿騎士団に断罪、粛清され、歴史上異端者は例外なく滅ぼされてき来た。
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