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「お疲れさまです!」 来る時よりも晴れやかな顔で挨拶をする私に軽く会釈をする夜勤の人達。お店を出ると、雨が降っていた。 季節は3月。高校を卒業した私はバイトを始めた。4月からは華の女子大生だ。そのための資金稼ぎ、のようなものだ。 折り畳み傘なんてものは無いので、フードを被り自転車に跨がる。鼻歌でCMの曲を奏でつつ田舎道を疾走した。 (こんな田舎になんだあれ。リムジン?黒塗りのリムジンじゃないか!?) 田んぼの隣に黒リムジン。違和感しかない。その横をすり抜けると、いきなり声をかけられた。 「あ、あの………」 こんな夜に声かけるなんて不審者に違いない。無視して全力で自転車を漕ぐ。車輪の回転する音が雨の音と同化するほど走らせる。 その時、目の前に何かが飛び出してきた。 「うおっ!?!?」 ニャーン 急停止すると、よく家の前をうろついている野良猫だった。すりすりと私の方に寄ってくる。しかし、母は動物アレルギーなので飼えない。 「びっ………くりしたぁ!」 大きなため息をつくと、猫を退かしてペダルに足をかけた。 「いっ…………!?」 ガツンと頭に衝撃を受けて、自転車ごと倒れる。服にじわじわと浸透する泥水を見て、背筋がすうっと寒くなる。 (まさか………犯される!?) 顔の良し悪しや体型以前に、大人しそうな子が狙われやすいと聞いたことがある。こんな田舎にはいないだろうと思っていたのが間違いだった。 車に乗せられて腕や足を縛られる。意識ははっきりしているのに、体は全く動かせない。走り出す車の音を聞きながら、私は頭痛から逃げるかのように目を閉じた。
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