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ぼんやりと目を開ける。滲む視界をまばたきしてクリアにする。目の前に見えたのは、見知らぬ天井だった。
どうやら縛られていないようで、すぐに体を起こした。鈍く痛む後頭部に手を当てると腫れている。横たえられていたベッドはものすごく大きく、所謂キングサイズなるものだと推測する。
(あの黒リムジンの家か………まさかの誘拐とは………)
目が覚めて、全裸で山中にいるよりかはマシなのか。とにかく早く帰りたい。
窓を開けて下を見ると、あまりの高さにくらりとした。なんだこの高層マンションは。
窓からの脱出を諦めて部屋をうろうろと歩き回る。部屋から出るあのドア……もし開けて、犯人と鉢合わせになんかなったらまずい。
(武器になりそうなもの………無いな。)
いつの間にか服も着替えさせられていて、黒のワンピースを身に付けていた。下着は変わっていなかったから、見られたとしても下着姿だ。
コンコン………
ノック音と同時に入ってきた男を見て思ったのは、なんだこの山賊は、だった。
ぼさぼさに伸びた不潔感しかない髪、無精髭、長身と同じくらいインパクトのあるお腹。上下共色落ちした灰色のスウェット。
(この人がリムジン乗り回してるの?いやいや、あり得ないでしょ。)
男はちぎりパンのような手で何かをノートに書くと、私にノートを突き出した。恐る恐る手を伸ばしてノートを受けとると、3歩下がって目を落とす。
(お名前は?)
達筆な字にも驚いたが、なんだこのアンケートのようなものは。
(耳は聞こえるので、口答でかまいません。)
「……………小澤、です。」
答えながらノートを返す。すると再び何かを書いて、私に渡す。
(間違えて誘拐してしまったようなので、家までちゃんと送り届けます。本当にごめんなさい。)
「……………ん?」
この世の中、人違いで誘拐されるなんてことがあるのだろうか。ドアを開けて待っている山賊に会釈して部屋を出た。
黒服のいかにもな人達に連れられて、私は再びリムジンに乗り込んだ。外を流れる景色を見て、自宅からそう遠くない場所だったことに気づく。
車さえあればかなり住みやすい田舎だからか。誘拐された地点で下ろしてもらうと、置き去りにされていた自転車に乗り、帰宅した。
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