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母の話を要約すると、こうだ。
新しく病院を作るにあたって、看護士長に母が推薦されたらしい。この近くに出来ると思っていたらしく、二つ返事で了承。
ところが場所は埼玉で、病院の寮に入ることになっていた。
「どうせみっちゃんもここから大学へは不便でしょ?だからいい機会だと思ってさ?ね?」
「私は大丈夫だけど……生活費とかどうするの?」
「そこは問題ナッシン!お母さんのツテでセキュリティーばっちり格安物件を借りといたから!みっちゃんはそこに住んでね。」
まだ車のローンも残ってるのに大丈夫なのか……。私は不安だったけれど、正直ここから大学に通うのは不便だなと思っていた。最寄りの駅まで自転車で20分、そこから1時間に1本しかない電車に乗り、再び乗り換えて……。
「…………分かった。それで、いつ引っ越すの?」
「んー?今週中かな?」
あれ、今日は木曜日なんですけど。あと2、3日で片付けろと?大きく息を吐き出してから、段ボールを片手に自分の部屋へと向かった。
そして日曜日の朝。お世話になった近所の人に挨拶をして、母は埼玉へ。私は大学まで電車で20分というまだ見ぬ家へ荷物を送った。
バイト先に突然やめることを告げたら、店長からは「入れたシフト分は働いてもらわないと」と言われた。しかし早水ちゃんやパートの人が私の穴はカバーすると言ってくれたのでとてもありがたかった。
「先輩、もし私も来年上京したら面倒見てくださいね!約束ですよ?」
菓子折りを持って挨拶に行くと、早水ちゃんは頬を膨らませながら私を突っついてきた。
「ご飯くらいなら面倒見れますよ。」
「先輩、管理栄養?だっけ。おいしいの作ってくださいね!」
管理栄養学部に進学する私。料理が好きだから、という安直な理由で決めてしまったが、管理栄養士になれるように頑張るつもりだ。
「短い間でしたが、お世話になりました。」
「みっちゃん、向こうに行っても頑張るんだよ!」
「体に気を付けて!なんかあったら戻っといで!」
みんなの応援を背に、私は駅へと歩き出したのだった。
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