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「えっと……」
と言ったまま、神崎くんに尋ねられた彼女は口を閉ざす。
傷の場所によるのかもしれないが、『どうしてそんなこと知ってるの?』という疑問があるんだろう。
そんな微妙な雰囲気に、振り向かずとも、後ろにいる彼らの様子なんて手に取るように分かった。
「雛森ね、子供の頃、うちで飼ってた犬に噛まれたことがあったんだ」
行儀のいい、よそ行き笑顔の神崎くん。
「あ。……へー。そうなんだー」
微かに感じる威圧感に押され、笑顔が引き攣る彼女。
それを静かに見守る外野。
「あの時は大変だったよね、雛森」
我関せず。を貫いていた私に、神崎くんが話を振る。
白々しいのが見え見えだが
「そうね」
とりあえずそう答えておいたのは、このくだらない話をさっさと終わらせたかったから。
「大変だったわね」
彼が言っている傷は、後で確認するとしよう――
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