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「何が。」
俺は視線を岸に集中させて言った。
「俺が、あの子に、嘘ついちゃったこと。」
「は?」
全く予期してない言葉の羅列に、一瞬何の話をしてるのかわからなくなった。
これからいったい何の話が始まるんだよ。
「前に言ってたじゃん。告白された子がいるって。」
いつものやさしい目の奥に、珍しく突き刺さるような光を感じた。
「いや、だからあれはお前に好きなやつがいるか聞かれただけで、
別に好きとかじゃないんだって。」
前に話したこと信じてないのかよ、この鈍感は。
「常套手段なんだよ、それが女子特有の。
お前に相談持ちかけて、気づいたら好きになってました、
付き合ってくださいって告白されるパターンなんだよ。」
そんなフラグいつ経ったんだよ。
「お前にはもっと、素直な子でやさしい子がいいと思うんだよ。
そんな駆け引きしちゃうような子は澤ちゃんには似合わないよ。」
とりあえず、今はこの話に乗っかっておこう。
それよりなにより俺は、お前の好きなやつが誰か知りたいんだよ。
“火の無い所に煙は立たぬ”
あの分厚い辞書に書いてあったじゃん。
事例を実際に体験してるなんて素晴らしいじゃん。
早く教えろよ。
そしたら、俺のこの焦る気持ちは恋じゃないってことにしとくよ。
お前のこと応援するよ。
初デートの感想教えろよ。
焦ってキスするとき鼻ぶつけんなよ。
顔面偏差値高くてもお前は純粋なんだよ。
早く言えよ。言ってくれよ。
そしたら俺は、打ち明けることのないこの気持ちを胸の一番奥に閉まったまま、
また同じような明日を迎えられることができるんだからな。
「それで、結局その子にどんな嘘教えたんだよ。
とりあえず後でその子に話しに行くからさ、何て言ったかだけでも教えろよ。」
ちょっとだけ勢いが弱まった岸の口元から出た言葉に、
俺の体は屋上からからかすかに見える記念樹並みに硬直したんだ。
「“澤ちゃんは、男が好きだから諦めて”って言ったんだよ。」
はあ。
お前、鈍感じゃなかったのかよ。
to be continued...
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