第3話 火事場の鈍感力

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「何が。」 俺は視線を岸に集中させて言った。 「俺が、あの子に、嘘ついちゃったこと。」 「は?」 全く予期してない言葉の羅列に、一瞬何の話をしてるのかわからなくなった。 これからいったい何の話が始まるんだよ。 「前に言ってたじゃん。告白された子がいるって。」 いつものやさしい目の奥に、珍しく突き刺さるような光を感じた。 「いや、だからあれはお前に好きなやつがいるか聞かれただけで、 別に好きとかじゃないんだって。」 前に話したこと信じてないのかよ、この鈍感は。 「常套手段なんだよ、それが女子特有の。 お前に相談持ちかけて、気づいたら好きになってました、 付き合ってくださいって告白されるパターンなんだよ。」 そんなフラグいつ経ったんだよ。 「お前にはもっと、素直な子でやさしい子がいいと思うんだよ。 そんな駆け引きしちゃうような子は澤ちゃんには似合わないよ。」 とりあえず、今はこの話に乗っかっておこう。 それよりなにより俺は、お前の好きなやつが誰か知りたいんだよ。 “火の無い所に煙は立たぬ” あの分厚い辞書に書いてあったじゃん。 事例を実際に体験してるなんて素晴らしいじゃん。 早く教えろよ。 そしたら、俺のこの焦る気持ちは恋じゃないってことにしとくよ。 お前のこと応援するよ。 初デートの感想教えろよ。 焦ってキスするとき鼻ぶつけんなよ。 顔面偏差値高くてもお前は純粋なんだよ。 早く言えよ。言ってくれよ。 そしたら俺は、打ち明けることのないこの気持ちを胸の一番奥に閉まったまま、 また同じような明日を迎えられることができるんだからな。 「それで、結局その子にどんな嘘教えたんだよ。 とりあえず後でその子に話しに行くからさ、何て言ったかだけでも教えろよ。」 ちょっとだけ勢いが弱まった岸の口元から出た言葉に、 俺の体は屋上からからかすかに見える記念樹並みに硬直したんだ。 「“澤ちゃんは、男が好きだから諦めて”って言ったんだよ。」 はあ。 お前、鈍感じゃなかったのかよ。 to be continued...
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加