81人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女に出会ったのは、幼馴染である北条美帆の紹介でだった。
『三村望です。よろしくね、翔太君』
そう言って、はにかんだように笑う彼女の笑顔に、多分俺は惹かれたんだと思う。
好きになるきっかけは、そこから。
気付けばいつも目で追いかけて、目が離せなくて、まぁ…目で追いかけてたのは彼女がおっちょこちょいだからかもしれないけど。
だから、あの日…あいつが一人で函館に向かった時も、追いかけちまったんだ。
ストーカーかよ、って…正直自分の行動に引いたけど、そんな俺に彼女は…。
『心配してくれてありがとう』
少し頬を赤らめながら、お礼を言ったんだ。
そんな彼女に、想いが膨れ上がった。
『…普通…心配するだろ』
言うなら今しかない。
そう思った。
『別に誰でも心配するわけじゃない。お前だから…』
『え…?』
『俺、お前の事が――…』
「好きだ」という肝心なところは、どうやら彼女には聞こえなかったようだ。
丁度この時、俺と彼女はタイムスリップした。
動乱の時代、幕末へ―…。
結局、彼女に想いを伝えることは出来なかったけど、今思えば伝えられなくてよかったのかもしれない。
(望に告白する資格なんて…なかった)
自分がいかに最低な男か、タイムスリップした先の江戸時代で思い知らされてしまったからだ。
…もう一人の彼女に出会ったのは、永倉に連れられてやってきた島原でだった。
“彼女”に似た、もう一人の“彼女”。
それだけで、俺の気を引くのに十分だった。
『…朔世どす。どうぞ、よろしゅうお頼申します』
鈴を転がすような声、艶やかな衣装。
綺麗に揃えた指先をちょんっと畳の上に置き、小さく頭を下げる彼女。
ゆっくりと顔を上げた彼女と目が合った瞬間、俺の心臓は落ち着きを失った。
『今日は楽しんでいっておくれやす』
そう言って微笑む“彼女”に、“彼女”の姿が重なった。
高鳴る心臓に戸惑いながら、俺は気付く。
どうやら、もう一人の彼女に…一目惚れをしてしまったんだと。
◆◇◆
最初のコメントを投稿しよう!