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夜通し遊び倒し、迎えた朝。
まだ太陽も顔を出していないのに、ゆっくりと白む空でさえ、今の俺にはとてつもない破壊力があった。
初夏に差し掛かる季節だが、早朝はまだ少し肌寒く感じる。
そんな中、朝日に向かって歩く、それぞれ丈の違った三つの影があった。
「どうだ、少年。初めての島原は」
俺の隣を歩く、この中で一番丈の大きい男、永倉新八が、にやにや笑いながら問いかける。
俺の返事を待たず、新八は再度口を開いた。
「身も心も癒されただろ?うまい酒と綺麗な女がいれば、満たされるってもんよ!昨日、総司に負けたことなんて、ちっぽけなもんだって思えるはずだ」
「……」
「なぁに、おめーさんなら 鍛錬を積めば強くなれる。もっと上に行けんだからよ、また総司と手合せしてこいよ。負けたっていいじゃねぇか、いつだって島原は翔太を歓迎するぜ!」
「……」
「おまえさんみたいに、鍛錬に熱心な奴は嫌いじゃない。総司だけじゃなくて、俺とも手合せしてくれよな!」
「……」
一人、熱くしゃべり続ける新八だったが、いつまでも翔太の返事が返ってこないことに、不満げに眉を潜めた。
「…って、おーい。聞いてんのかー?」
新八は翔太の顔を覗き込む。
だけど、翔太はぼんやりと足元を見ながら歩いているだけで、反応は返ってこなかった。
この中で一番丈の低い青年は、そんな様子に『心ここにあらず、だねぇ』と苦笑を浮かべた。
「放心状態ってやつかな」
「うーん…翔太にゃまだ刺激が強すぎたか?やっぱ、俺ぐらい大人にならねぇと女の良さは理解できねぇっつーか」
「え?誰が大人だって?」
「誰って、俺しかいねーだろ。この中で、一番最年長じゃねぇか」
当然だろ、と新八は真顔で答える。
それに対し、青年、藤堂平助も真顔で切り返した。
「新八っつぁん、大人っていうのはね…お金の自己管理がちゃんとできるようになってから、初めて大人だって言えるんだよ」
「な、何だよ!自己管理出来てるぜ!?今回だって、奢ってやったろ!?」
「うん、確かに奢ってもらったね。でも、あとから『金がないー』って泣き言いうじゃん、新八っつぁんって」
『それってつまり、お金の管理が出来てないことでしょ』と、鋭いツッコミを入れる平助に、うぐっと新八は言葉を詰まらせた。
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