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「これならどうだろうか?」
青ヌガーを食べられなくて落ち込んでいる僕を見て、晶族の少女が腰のケースからなにかを取り出した。
見た目は丸い宝石。色味といい固そうな質感といい、先程の食用鉱石と何が違うのかと聞く前に、彼女は空いた僕のグラスにそれを放り入れた。
青い宝石がグラスの中空で止まり、次の瞬間、水が噴き出した。
グラスを一瞬で満たしたそれは、よく見れば大きな水滴が集まって出来ているように見える。
ふちからこぼれた水滴は、床に落ちても丸いままで、まるで油紙にのせているみたいだ。
聞けば、この液体は99.9%がH2Oで出来た高分子化合物なのだそうな。
層状粘土鉱物膜保水液と呼称するその水は、他の物質とほとんど化合せず、常温のまま千年でも二千年でも保存できるらしい。
蒼い宝石自体は、その水を貯蔵している場所から転送している装置にすぎない──いやいや、そちらの方が凄いというか、晶族の科学技術の高さに驚かされるばかりだ。
当の彼らは僕ら炭素人類の作る、つたない手作りの道具などを宝物のように扱うが。
上から下からグラスを持ち上げて観察していると、少女が飲まないのかという視線を投げかけてくる。
おっと、これは失礼。では、実食させてもらいます。
…………。
……………………。
………………………………。
う、うまぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ! 味そのものはないに等しいが、独特の喉ごしが本当に宝石を飲んでいるようだ。
小さな粒が清涼感を残しながらつるつると喉を滑っていく。
あまりに美味すぎておかわりまでしてしまった。ひどい夜食になったと思ったが、この水のおかげで今日はよく眠れそうだ。
深夜、寝袋に潜り込んでうとうととしていると、火の番をしているミユキくんが何かをつぶやいている。
「ほとんどの物質と化合しない水なら、もしかして人間の胃腸じゃ消化吸収できないんじゃ…………」
そのつぶやきは寝入ろうとしている僕の頭には入ってこなかった。
………ああ、眠い。お休みミユキくん。
───翌朝、トイレに立った僕はとても青くて綺麗なうん
───手記の字はここで乱雑に書きつぶされていて先が読めない。
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