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「旦那ァ、そんな屑石を自慢気に見つめてどうしたんでさぁ。」
悦に浸る私の気分をぶち壊すのは、この宿の主である男だった。
彼は晶族の中でも特に珍しい"彩族"である。
小柄な身体で、我々炭素人類の12歳程度の個体程度の身長が成長の限界であるらしく、その殆どは小柄である。しかし彼らは非常に適応力、吸収力が高く、一晩話しただけなのに軽いノリで教えた我々の母国の方言を真似して楽しんでいる。
しかしそれよりも驚かされたのが、彼らのもう一つの特徴であるその奇妙な形に進化した目だ。
瞼が三重構造になっており、一番上の瞼の下の二重は結晶のように透き通っている。
この不思議な瞼はまるで精密なレンズのような役割を果たし、閉じたり開いたりすることでその視力を調整できるらしい。小さな小さな針の穴から、何気ない液体に潜む微生物、さらには遥か千里先の大地までをも見通せるんだとか。
何故彼らがそのような進化を遂げたのかは気になるが、彼らはその目を使ってのあらゆるものの観察眼に長けている。
「屑石とはなんだね?」
「だから、旦那が持ってるその石ころでさぁ。」
なるほど、彼らにはどうやらこの輝くナイフが鉄屑に見えるらしい。何か悔しい。心の中でめらめらと燃え上がる対抗心に操られるまま、私はナイフを透き通る鉱石の机に突き立てた!
するとナイフはパキッという呆気ない音を立てて、先端が欠けてしまった。私は思わず恥ずかしくなり、いそいそとその刃こぼれしたナイフをしまいこむ。
「あーあー言わんこっちゃねぇ。そんな道端の石ころを無理やり刃物みたいに研いでみました、みたいなものを振り回すくらいなら、その辺に売ってる果物ナイフを持った方がいいですぜ。」
彼らの目には、精錬し焼き入れされた鋼鉄ですら、粗末な石ころに見えるらしい。この世界の鉱物加工技術には驚かされるばかりである。
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