偶然

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スタジオ側のファミレス。 昼時なのもあり、それなりのお客さんで賑わっている。 目の前にはご飯を食べ終わっている彼が、カロカロとアイスコーヒーの氷をかき混ぜている。 私は何故こんなものを頼んだのか、後悔していた。 ドリア、熱いよ…。 必死に冷まして、口に頬張る。 まくまくまくまく…。 うぅ…まだ半分近くあるよぅ…。 ふいに彼と視線がぶつかる。 …う、遅いって思われてるだろうな… 「すみません、遅くて…」 申し訳なくなり、謝る。 「いーや、俺が早いだけですよ」 彼はそう言って、アイスコーヒーをすする。 優しい人だ。 …急いで、食べよう…! ようやくドリアを食べ終え、アイスティーを口にする。 喉を通る冷たさが心地いい。 それより何か話さなきゃ。 黙って待っていてくれた彼に申し訳ない気になる。 うーんと、うーんと… 「綾崎さん、は」 とにかく思った事を。 「声優さん、だったのですね」 そう、それが一番ビックリした。 だって電話の声、低くて怠そうで… 「そー。意外でしたか」 「はい、間違い電話の声が、怖か…」 はっと顔を上げ、目が合う。 またやっちゃった!? ほんと、もう少し考えてから発言しようよ、私…。恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かる。 「あー、相手蒔田…友人だと思ってたからさ、つい」 「す、すみません…」 私の失言も、気にしないという風にへらっと笑って手を振る。 「すまんね、俺の配慮が足んないんだわ」 眉を下げて笑う。 「いえ!そんな事…」 ぶんぶんと首を振る。 そりゃあの時は一瞬緊張したけど! ちょっと、悪い人だったらどうしようとか、考えちゃったけど! 素人同然の私の演奏で良いと言ってくれる事も。 食べるのが遅い私を、黙って待っていてくれる事も。 このふわっとした笑顔も。 「でも、今は、怖くない、デス」 優しさでいっぱいだ。 言ってから急に恥ずかしくなって、慌ててアイスティーをこくこく飲む。 冷たいドリンクで顔の火照りを冷ましたかった。 「そりゃどーも」 ふっと笑って彼は言い、アイスコーヒーを飲んでいる。 一人焦っている私と、落ち着いている彼。 あー、大人だなぁ、なんて思った。 やっぱり子供だなぁ、私。
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