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「プレイヤー…?」
カランとグラスの氷をストローでかき混ぜながら、向かいに座る人物に聞く。
夏休みがそろそろ始まる頃。
呼び出されて駅前の喫茶店に来ていた。
「そ。俺が担当してる声優が歌出すんだけど、そのバッグ演奏」
そう言ってコーヒーを飲む男性。
私のお父さんの弟、つまり叔父さん。
桜井恭介(さくらいきょうすけ)、まだ独身。
お父さんと仲がよくて、昔からよく家に遊びに来ていた。
兄弟が居なかった私にとって、優しいお兄ちゃんでもある。
「柚希今バイトしてないだろ?」
「うん。三年になったら、ちょっと時間空くから、するつもりだよ」
「なら丁度いい。それなりにバイト代、出るぞ」
「んー…」
少し考える。
ピアノを使ってバイトが出来るなら、それはそれで良いことだと思うけど…。
「私で、いいの…?」
不安。
歌を出すって事は、CDになるんだよね?
私のピアノなんかで、いいの?
「柚希に、お願いしてます」
にっと笑って言うお兄ちゃん。
「俺、お前のピアノ好きだもん」
「…それ、ただの贔屓目…」
「ちげーよ。お前のピアノは音が優しいから」
身内でもそんな事言われると、嬉しくなる。
「…分かった」
「おっけーだな?」
「…うん」
「よし」
ぐりぐりと頭を撫でられる。
こうしてると、本当にお兄ちゃんみたい。
「…むー、頭ぐしゃぐしゃ…」
でも折角したセットがぐちゃぐちゃになるのは困る。
手でうにーっと髪の毛を引っ張って伸ばす。
「柚希は気にしすぎ」
お兄ちゃんは笑って言うけど。
くせっ毛って、厄介。
一生懸命真っ直ぐになるようにセットしてるんだから!
「ま、とりあえず、来週末辺りに顔合わせとかあると思うから、そのつもりでいろよ」
「うん」
「日時が分かったら連絡するから。もうすぐ夏休みだろ?」
こくんと頷く。
夏休みとはいえ、日中は学校に行って練習したりする。
夏休み明けには、学内でコンクールみたいなのもある。
家にはキーボードがあり、部屋が防音とはいえアパートなので、ご近所迷惑を考えると遠慮してしまうし、全然ピアノとは違う。
やっぱり思いっきり弾きたい。
「兄さん達にも言っとくから。夏休みには顔出してやれよ?兄さん泣くぞ」
「分かってるよー」
喫茶店を出た所でお兄ちゃんが笑って言う。
実家は同じ都内だが、電車で帰るとなるとやっぱり億劫で、それなりの休み期間が無いと帰らない。
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