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坂を見上げると、紺碧の空は遥かに高く、限りなく澄んでいた。
温かい風が不意によぎり、白い桜の吹雪が目の前を染めた。
僕と美沙は、駅へ向かって歩いていた。
「すみません、お休みなのに」
「ううん、当分会えないだろうからね」
美沙は春らしい白のワンピースに薄いブルーグレーのカーディガンを羽織り、刺繍のある丸い日笠を差している。
ほっそりとした姿で、静かな横顔が一際目を惹く。
風が吹けば、美しく長い髪がふわりとなびいて輝いた。
彼女は大学の絵画クラブの一年後輩で、先日卒業したばかりだ。
卒業後は地元の石川へ帰ることになっていて、今日が出発の日である。
僕は大学時代、彼女と仲が良かった。
彼女は良家の令嬢で、初めて見た時、僕らのような庶民とは違う気品が漂っていた。
だというのに、随分気さくで馴染みやすかった。
仲間たちと夜通し遊んだりもした。
彼女はその頃より少し大人になり、きれいになった。
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