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坂の上まで来ると、駅前の街が見下ろせた。
そこかしこに公園が散らばり、至る所に桜が沸き上がっていた。
昼前の陽光で景色は華やいで見えた。
坂道を下り始める。
僕は言葉を探す。
でも言葉が出てこない。
大学を卒業してからも、仲間たちと集まって騒ぐときは、互いに他愛のない話を沢山できた。
でも、今日は言葉が見つからなかった。
美沙もいつか、言葉少なになっていた。
街ゆく人の声、車の音、坂のずっと下で駅前の遮断機が鳴っている。
電車の近づく音がする。
こんなに街は、色んな音がしただろうか。
「先輩は」
不意に美沙が言った。
僕は驚いたが、安心もした。
「何?」
僕は美沙に目をやると、彼女はこちらに顔を向け、少し驚いたような、戸惑う仕草を見せた。
かと思うと少しうつむいて、
「ううん」
と言って、また黙った。
しばらくして思いついたように、
「先輩は優しいですよね」
と、やけに明るく言った。
「そう?」
「だって今日も、見送りに来てくれたし。
今も荷物とか持ってくれてるし」
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