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放課後、教室の窓側の席に座る君。桜空(さくら)。
僕はグランドを走りながら、目の隅でいつも君を追っていた。
君は生まれながらに心臓が少しだけ弱くて、走ることができなかったから、君の目にはグランドで走る僕たちがどういう風に映ってたんだろう。
部活後の夕暮れの土手を家に向って歩く君と僕。
君のペースに合わせてゆっくりと歩く、僅か20分の道のり。
この二人だけの時間がこの先も続くことを願っていた。
秋になって少し肌寒さを感じる頃、咳をするようになった君。
『こじらせないように、気を付けないと』と言った翌日に入院してしまった。
僕がもっと気を付けていれば……ちょっとした風邪が命取りになる事も知っていたのに。
1週間が過ぎても2週間が過ぎても退院しない。
病院にお見舞いに行っても会わせてももらえない。
『桜空、君は僕に会わなくても平気なの?会いたいと思ってるのは僕だけなのかな?』
この時の僕は何も知らなかった。君は一生懸命闘っていたんだね。
会えないまま、月日は流れていく。
冬が来ても君が学校に戻ってくることはなかった。
それでも僕は信じてたんだ。君がこの教室に戻ってくることを。
春になり学年も一つ上がり、昇降口にはクラス替えの紙が貼り出される。
君の名前を探すが見当たらない。
『おかしい。なんでだ?』
気が付けば職員室に駆け込んでいた。前の担任に詰め寄るも、個人情報とやらで、まともな答えも貰えない。
僕は学校を飛び出し、君の家へと走る。
辿り着いた先で見つけた【売家】の貼り紙。
『なんで……』
身動き一つできなくなった僕は立ち尽くすだけ。
庭に植えられた桜の花びらが春の風で儚く舞い、空を桜色に染めていた。
『桜空……』
その後どうやって家まで帰り着いたのか、僕は覚えていない。
ただ制服に花びらが数枚、欠片のように張り付いていたことは覚えている。
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