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あれから何年の月日が流れたかな。
あの日と同じように桜の花びらが今年も舞ってる。
『あなたの中で、桜の花のように一時でも愛されるなら、桜の花のように散ってしまっても構わない』
君の口癖だったね。
その言葉通り、僕の心を浚って、消えてしまった。
他の誰かと付き合っても、君と比べてしまう自分がいる。
あの日から僕の心の時間は止まったままなんだ。
春の陽気の中、ベンチで転寝してしまった僕を揺り起こす声が聞こえる。
どこか君の声に聞こえるのは桜の木の下に居るからかな。
いつまでも聞いていたい。
『起きて!』
あまりにもリアルに聞こえて思わず見開いた瞳に映ったのは、青い空と淡い紅色の花吹雪。
思わず掲げてしまった手。その手をしっかりと掴み込む懐かしい感触。
花吹雪に紛れていたのは……愛しい桜空の微笑み。
後日分かった、僕にだけ誰も教えてくれなかった真実。
移植しなければ生きられないことが分かり、急遽渡米していたこと。
行ってみなければ手術できるかも分からない。
仮にできても成功率も低い。
生きて戻れる保証もない。
そんな状況を伝えれなかったと。
そして、なんとか生きながらえて戻ってこれたと。
今日も空には桜の花びらが舞う。
跳ねるようにふわふわと微笑ってる。
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