第1章

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そしてまた涙が出てくるから タチが悪すぎる。 髪をグチャグチャにされて その手で、私の頭はヨシの胸に収まっていた。 なぜヨシが そんな風にしてくるのか理解できなくて 身動き取れずにジッとしていた。 頭をガッツリ捕まれたままだったから。 頭の上で溜め息を吐き出すのが分かって やっと自分の頭をつかんでいる力が緩んだ。 それとともに、私はヨシの胸から離れて顔を上げる。 ヨシの顔は不機嫌のまま、私からフイッと顔を逸らした。 「ミユキはリューマのどこがいいの?」 「どこがって……。好きになったら理由なんて分からない」 「あ、そ」 ヨシは訊いておいて素っ気ない態度を取る。 ヨシの少し険しくなった横顔を見上げながら 私はどこでヨシの機嫌を損ねてしまったのか 考えあぐねいても、分からなかった。 立ち飲みで 一杯だけのつもりが 何杯目だか分からないぐらい飲んで ヨシがお会計をしているのを 泣き晴らした目でボヤッと眺めながら 私の記憶は その辺から 薄れていって 家に帰り着くまで ヨシのぬくもりだけを感じていた。 タクシーに乗り込んだ感覚。 「ミユキのマンションの住所は?」 ヨシの声。 答えられない私。 「あー、もうしょうがないな」 ヨシは私のマンションの場所を知っている。 ヨシも一緒に乗り込んで タクシーの運転手に 道案内をしている。 ヨシにもたれ掛かる私。 フワフワして 何も考えなくてよくて 心地よくて ほとんど一睡もしていない私は もう眠くて眠くて 自分を保っていられなかった。
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