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「上出来」
久しぶりにハンバーグを作った。
形は微妙に不細工にも見えるけど
味には自信がある。
オレは久々に味わう達成感に包まれて、息をつきながらソファに腰かけた。
時刻は19時。
ミユキが何時に帰ってくるのか分からなくて、
何度もメールをしようとしたけど
躊躇ばかりを繰り返してしまっていた。
ミユキの今朝の拒絶の顔が浮かんでくると
スマホを打つ手がどうしても止まる。
……やっぱりサプライズでいいか。
オレは
ミユキが作ってくれたグラタンをオーブンで焼いて、二つとも平らげたから
お腹はすいてないけど
ハンバーグは、なるべく出来立ての内に二人で食べたかった。
睡眠不足のオレはミユキを待ちながら、
ソファの上で横になり
いつしか
ウトウトと意識が遠退いていく。
ーーーー時は江戸時代末期。
オレは今日も芸役者として、花街に繰り出し、“かぶき者“として、人から注目を浴びながら、それを銭に変えていた。
オレは、場所を選ぶ事なく、お呼ばれがあれば、その場所に行く。
女に化けて、人を魅了する。
それがオレの生きる道だった。
官僚のお偉いさんが、
高い銭を払って、オレを買おうとする。
「私は遊女でも花魁でもないよ。芸だけを買っておくれよ。御奉仕はなんでもするからさ」
官僚のお手元のお酒を並々に注ぎ入れる。
「芸で魅了されたら、お前という人間を買いたくなるのは当然の事だろう」
荒々しい息づかいが耳元で疎ましく感じる。
野郎の手が伸びてきて、着物の中のオレの肌に触れる。
「ん……?!」
「だから言ったろ。オレは遊女じゃないって。そっちの相手はお断りだよ」
「こ、この際、男でも構わん。御奉仕すると言うなら、オレの収まらないやつをどうにかしろ」
ムリヤリオゾマシイモノを触らせる。
変態ヤロー。
マジでタマ潰したろか。
女将さんが、“問題を起こすな“と無言の訴えを視線で飛ばしてきた。
チッと舌打ちするも、
女将さんに呼ばれる。
「旦那様がお呼びだよ」
助け船なんだか、そうじゃないんだか。
旦那様に呼ばれる時は
見たくない情事をムリヤリ見せられる時。
ヨシの顔をした旦那様が、
妻のミユキとヤッてるところをオレに見せつけたがる、官僚よりも悪趣味の、ド変態野郎。
オレに嫉妬なんてしてるなよ。
オレとミユキは
結ばれる事のない兄妹なんだから。
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