第1章

4/32
前へ
/32ページ
次へ
帰りが遅くて 里奈さんの香水をあんな風につけてきて、 何もなかったはずがない。 リューマを信じてる。 けれど、解せない。 自信がない。 リューマを信じていこうとする自分に。 夫婦ってなんなんだろうな。 ヤキモキして心落ち着く時がない。 「「「お疲れさまでした!」」」 練習会もなくスタッフ皆、さっさと帰宅の準備をして、サロンを後にしていく。 私とヨシだけが残り、最後の閉めの業務を続けていた。 「ミユキ、一杯飲んで帰ろう」 「イヤ、今日は帰る」 「…………」 ヨシの一杯の誘いに無意識に断りの言葉を投げる。 ついそれが条件反射になってしまっていた。 ヨシは不貞腐れた顔して私を睨む。 「なんだよ、ミユキの気晴らしに付き合ってやろうと思ったのに」 「ヨシに気晴らししてもらわなくても大丈夫」 「あ、そ。機嫌は朝からずっと悪いままの様に見えるけど?」 「とうぶん悪いと思う。」 「リューマとケンカしたから?」 「…………」 私は、ヨシを無視して、黙々と仕事を終わらせると「帰ろっと」と呟いて、バッグを掴んだ。 そして、バッグの中からスマホを取り出し、リューマからメッセージが入っていないか確認する。 ……けどない。 忙しいんだか 私に関心がないんだか。 胸が、ジクジク痛み出す。 昨夜作ったグラタンは焼かないで冷蔵庫に入れたまま。 「やっぱり一杯飲みに行く!」 リューマと一緒に食事をしたくて、毎日、夕飯の用意をしようと努力していたのが なんだか今となっては馬鹿らしい。 もう、リューマなんて知らない。 夫でもない。 里奈さんと仲良くしてればいい。 リューマの存在を否定する事で リューマに裏切られたような悲しみが紛れるような気がした。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加