第1章

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「気が変わるの早いな」 「気分転換ってそうゆうものでしょ」 「ミユキは気分屋だからな」 「一杯だけだけだよ」 「オーケー、じゃ、行くか」 ヨシは、パソコンの電源を落とすと、サロン内を1度見渡して、店内の照明を消した。 そしてサロンを出て、肩を並べて駅前の立呑屋に向かう。 「藤森さまには何て言って断ったの?」 「今日は先約があるので次回にでもって言って濁しておいた」 ヨシは顔をしかめて前方を仰ぐ。 かなり面倒に思っている様子だ。 「実は、藤森さまから自分のサロンを出すように後押しされてるんだ。 金銭面は支援するからって」 「そうなんだ……。ヨシは独立したいの?」 美容師みんな、最終着地点は独立すること。 「金銭的な工面が出来るならね」 「だったら藤森さまは打ってつけじゃん」 「そうゆうけど、枕させられそうだろ」 苦い顔していうヨシは 彫りの深い顔立ちを更に深くさせていた。 思わず笑いが零れてしまう。 「ヨシは固いよね」 「……フツーだろ」 私の言葉に、眉を寄せて私を見下ろした。 「良い話には裏があるって言うだろ」 溜め息混じりにヨシは言った。 「そうだね。でも悪い話ではないと思うよ?」 スタイリストが独立するのに投資してもらうのは良くある話。 ただ、経営のマネジメントは任せてもらえないけど。 藤森さまは、現に経営者だから、ビジネスでヨシを買いたいだけなのかも知れないし。 「だな。でも、そうしたらオレにも相棒が必要だよ。1人でサロンは運営出来ないから。」 ヨシがそう言ったところで、 私たちは立呑屋に足を踏み入れた。 「いらっしゃいませー!」 とりあえず、ビールと焼鳥の盛り合わせを注文して 私たちは乾杯した。 「今日もお疲れ!」「お疲れ!」 黄金の水を流しこんで、私は リューマの事を頭の中から排除しようと試みた。 リューマがさっさと帰宅しているとも知らずに……。
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