第1章

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しかし…… あの広告代理店の言った事…… 引っ掛かるな。 里奈がオレにすがるように、 事実、Ripshはオレのブランドのような扱いをされている。 オレのブランドだって全面に押し出しても 過去に芸能界で売れてたからネームバリューがあるだけで、 現状、芸能活動していないオレの事が次第に忘れ去られていけば ブランドの価値だって必然的に落ちていく。 オレのネームバリューなんて、一時の価値にしかならない。 里奈のデザイナーとしての才能をもっと認めてもらわなければ、 後がない。 オレだって年取るし、 いつまでも、自分のルックスばかりに頼っていられないんだから。 「……さてと、夕飯何作ろうか」 まだ3時過ぎたくらいの時間だったけど、オレは最寄り駅のスーパーに寄った。 何作ろうかと思案するほど レパートリーがあるわけじゃない。 ミユキの好物って何だっけ? スパイシーな料理が好きなのはお互い共通してるんだけど オレが作れるのはチャーハンとかハンバーグとか、定番のものしか作れない。 最近ミユキと外食もしてないし、お互い何を食べてるのかも把握してなかったな。 どんなにお互い忙しくても 食事だけは一緒に取ろうと 結婚した当初は約束していたのに。 里奈のブランドで、収入を安定させたくて 仕事ばかり優先してしまっていた。 ミユキにメールして何が食べたいか訊いてみよう。 そう思ってスマホを手に取る。 メッセージを打とうとしたら 今朝の光景が脳裏に浮かんだ。 ミユキが腫れた目で オレを睨んで 拒絶の言葉を投げつけた。 その時、胸に感じた 鈍い痛みを思い出して ついスマホを打つ手が止まってしまう。 『一緒にいて』と言われても出来なくて、 逃げるように家を出てしまった後ろめたさがオレを苦い気分にさせた。 ミユキの傷ついた顔と拒絶の言葉を思い出す度に 胸がギュッと締めつけられる。 ミユキ、オレを嫌いにならないで。 夕飯は、サプライズで驚かせよう。
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