4人が本棚に入れています
本棚に追加
【モルドレッドルート】
「……残念ですよ、貴方を手にかけなければいけないのは」
吉川の胸を貫いた真紅の刃を引き抜くクロードは何時ものように飄々とした風に笑う。どうして、と漏れそうになった言葉はクロードには届かない。どうして。その問いの答えを私は知っている。私が彼を元の世界に返さなかったから。私が彼の言葉をまともに聞かなかったから。
「……俺と貴方の間には微弱な契約しかありません。他の契約者とは違う。だからこそ、貴方を殺して自由になることができる」
「待って……待ってよクロード、これも冗談なんでしょう!?」
「……ああ、俺の名前覚えていてくれたんですね」
言われて気づいた。一度も彼の名前を呼んだことがないことに。そう、一度も――。
「だ、だって……」
「……さあ、長話は終わりです」
振り上げられた刃。それは真紅の光に斬り裂かれる。真紅の光――いや、人間だった。
「だ……れ?」
返答はなく、赤髪の男は二本のナイフでクロードを圧倒していく。クロードは地面に押し倒され、男はその首にナイフを滑らせる。
「やめて! クロードを殺さないでっ!!」
私の声が届いたのか、男の手が止まる。その右腕をクロードの仕込み杖の刃が引き裂いた。
男は苦しむ様子なく左手でクロードの右肩にナイフを突き刺し、飛び退いて私の隣まで戻ってくる。
「殺してはいけないとはどういうことだ……お前を殺そうとしてくる者を殺してはいけないのか」
低い、地の底から響くような声。真紅の髪と瞳。そして何より、右腕は既に再生を完了していた。
「……優先事項はなんだ、命令しろ」
優先事項? 命令? 私が? そんなこと、できるわけない。怖い、口が、頭が動かない。
「……団長背負って逃げろ! 麓に町がある! そこまで逃げろ!」
不意にそんな声が聞こえ、赤髪の男は私を担ぎ上げて山を下り始める。クロードの前には吉川達が立ちはだかっていた。
「離して、止まってっ!!」
必死に叫んでも返ってくるのは「命令だ」という低い声のみ。木々は後方に流れて行き、皆の姿がすぐに見えなくなる。
★
脳内ワンシーンに書いたやつ
最初のコメントを投稿しよう!