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【掴んだ手】  浅間の右手はすべてを破壊してもなお止まる気配はない。立川はそんな彼を見据えて「申し訳ありません」と小さく呟いた。その間にも彼の右手は壁、床、機材――全てをその渦に巻き込んで行く。 「清太郎さんっ!」 「動くな馬鹿野郎!」  走り出そうとした団長を止めたのは彼自身の声。意識はしっかりしているらしく、その目は真っ直ぐに立川と団長を見据えている。 「基地内の人間の避難は空音さんと吉川たちが動いてる。上野くんたちは杉本さん呼びに行ってるよ!」 「……そうかい。そうだ、先生よ、どこか外に飛ばしてくれよ。アンタならできんだろ? どうせ死ぬなら誰も巻きこまねぇ死に方がいいんだよ。わかんだろ?」  浅間の口ぶりから死ぬ未来を受け入れているのを察して、団長は静かに「なんで」と口を開いた。 「『なんで』だぁ? ああ、てめぇにはわかんねぇだろうな、一生わかんねえだろうよ。それでいい」  疲れたんだよ、と彼は瞳を閉じる。彼を中心に渦巻く渦は、すべてを飲み込まんとする。もう時間がない。 「死なせない! 私が死なせないから!」  そう叫び団長は地面を蹴った。浅間の止める間もなく、立川さえも動けず。団長はただ、浅間の右手を掴んだ。手のひらが硬化していく。それでも掴むのをやめない。 「なっ……なにしてんだっ!! やめろ!!」  その声に混じっていたのは怯えか、驚嘆か。その瞬間、白い何かが煌めいたかと思うと浅間の右腕が切断される。ぐらりと倒れかけた浅間を支える団長。その視界に映ったのは白い髪に蒼い瞳の青年。 「……気をそらせてくれてありがとう、催眠魔法をかけているから彼は今痛みを感じていない。早く医務室に連れて行きなよ。君もね」  こくこく頷く団長に、彼は「……あと、君は本当無茶するね。死んでも知らないよ?」と付け加えた。 ★ 団長は誰にでも死なせないからって言うし浅間さんは誰でもやめろって言うから(真顔)
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