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【2028年、8月】 「何故……何故浅霧さんが死ななきゃなんなかった? 超能力者だからか? それとも――」 「……浅間」  何も言えなかった。中学時代の奴が浅霧さんのおかげで立ち直っていたことも、きっとあの人の支えがなければダメになっていたことも知っている。だから何も言うことができなかった。 「俺も探ってみる。……情報があれば回す。だから無茶はしないでくれ」 「無茶? くくく、高岸。誰に向かって言ってる。何が超能力者だ、何が撲滅だ……」  人が狂気に飲まれる瞬間を見るのは初めてだった。榊原が言っていた未来がコレによって引き出されるものだとしたら、俺は――  乾いた破裂音が響く。目の前の男が歪んだ笑みを浮かべたまま前のめりに倒れた。ピクリとも動かず、赤がアスファルトに流れる。 「浅間……?」  その背後には見覚えのある顔が笑みを浮かべて立っていた。雪のような白い肌。黒い長い髪。ああ、あれから随分経っているのに何も変わらない。あの悪魔のような笑みですら。 「ふふ、ごめんなさいね。踏み台を片付けるのを忘れていて」 「小早川 湊――」  その奥に、もう一つ顔があった。その大きな体躯は動揺に固まり、ぴくりとも動かない。ああ、まずいな、と咄嗟に思った。俺に構わず振り返った女に、彼の表情は変化することなく。 「あら、偶然ですね――秋山さん」  その表情はこちら側からは見えないが、きっと清々しいほどの笑顔だ。
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