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【仲間割れとそれから3】
黒い光弾が荻野を狙い三方向から発射される。彼はそれをわずかな隙間をくぐり抜けるようにかわし、状況を把握するように辺りを一瞥した。走る足は止まらず、彼の目は何かを探している。
世界がモノクロに染まる中、彼は右手を一体のモノクロームに向かい翳した。モノクロームは怯えるように後ずさり、漆黒の光弾による攻撃を加えたが、荻野の右手はそれを待っていたかのように輝く。
蒼い半透明の結界はそれを受け止めると雷撃を纏い勢いよくはじき返した。それはモノクロームに直撃し、その姿が揺らぐ。荻野はすかさず先ほど見つけたらしい鉄パイプをその一体に叩きつけた。
「悪いね、こんな戦い方しかできないんだ。我ながらスマートでないとは思うけど――ハッタリが効くうちはこれくらいさせて欲しいな」
「何べらべらくっちゃべってるんですか、次がきますよ!」
鉄パイプを構えた荻野を庇うようにクロードが前に出る。荻野は赤い瞳で団長を捉え、「君は団長ちゃんに専念しなよ。なんか様子がおかしい」と吐き捨て鉄パイプを構え直した。
「……恐らく俺じゃ無理です。荻野の旦那、彼女の心が読めますか。読めるなら貴方が対峙したほうがいい。私には――わからない」
荻野は静かにその言葉を聞いていた。その言葉は本心だ。恐らく荻野が初めて聴いたクロードの本心。それを聞き逃す彼ではない。
「わかった。僕が対峙する。でもねえ、こういうのは全員で止めるのが王道なんじゃないの? 僕が止めたんじゃロマンが足りないよ」
こんな時に何を、というクロードに荻野は「なめちゃいけないよ、愛だの友情だの絆だのを。僕は信じてるよ、彼女らの間には絆があるって」と、遠くかけてくる足音に耳を澄ましながら一気に距離を詰め、団長の頬に触れる。
『ごめんなさい。私が弱いから――私が非日常を願ったから』
その思考に、荻野は納得する。だから彼女は負い目を感じているような物言いをしたのだと。だが、それは否定しなくてはならない。彼女が願う前から異変は起きていたのだから。
そんなのは違う。否定してやりたかった。しかし、それは自分の役目ではない。それでも、今否定しなければいけない。今否定しなければ彼女は壊れてしまう。それでも、それは自分の役目ではないのだ。ああ、堪らなくもどかしい。彼女が求めているのは僕の声ではないことが、堪らなくもどかしい。
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