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「ジョージの最初の山は準決勝のカザン戦か。タツオも準決で当たる佐竹(さたけ)宗八(そうはち)だな。そこまではどっちも波乱はないんじゃないか」
トーナメントに出場しないクニは気楽なものだった。これだけの大観衆の前で試合をするのだ。しかも将来の上司になるかもしれない進駐軍の幹部も大勢顔を揃(そろ)えている。無様な試合はできなかった。進駐官の卵としてのプライドもある。おめおめと負けて引き下がる訳にはいかない。
歓声があがって、タツオも掲示板から試合場に顔を戻した。柳田が腹を押さえ、しゃがみこんでいる。ジョージがいった。
「いい正拳突きがみぞおちに決まった。勝負は終わりだね。つぎはぼくの番だ」
氾(はん)帝国風のスタンドカラーのゆったりとした上下を着たジョージがひと動作で立ちあがった。空気をはらんで上着の胸がふくらむ。縁(ふち)取りの金糸がきらりと光った。場内アナウンスが流れた。
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