309人が本棚に入れています
本棚に追加
ジョージは目をあわせなかった。静かにオープンフィンガーのソフトグローブをつけている。審判の少年が叫んだ。
「両者離れて、試合開始だ」
ゴングが鳴ると同時に岩村が両手を広げて、ジョージに突進した。時計回りにダンスのようなステップを踏むと、ジョージは半回転した。ジョージが速いのは拳(こぶし)だけではなかった。足さばきもプロのランキングボクサーのようだ。タツオもスパーリングをしたことがあるからわかるのだが、ジョージの力は攻撃力よりも防御力にあった。
たたらを踏んで岩村が急停止する。狙いを定めるとまた突進を繰り返す。ジョージは左右に3度連続でタックルを避けた。タツオがつぶやいた。
「ジョージのやつ、ウォーミングアップしてる」
腕を振り回して声援していたクニが振り向いていった。
「あいつ、そんな余裕があるのか。この大観衆の前で遊んでるのかよ」
最初のコメントを投稿しよう!