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「シッシッ」  歯の間から漏(も)れた音がひとつの音に聞こえる。ジョージの左が二度フラッシュを炊(た)くように岩村の右頬(ほお)に突き刺さる。その打撃で岩村の足が完全に止まった。足を止めてはいけないのだが、ラグビーの練習で顔面の打撃に慣れることはできなかった。  ジャブで相手を止め、顔を起こさせる。距離は正確に左のリーチで計っている。スピードには圧倒的な差がある。ジョージの全身はリラックスしていた。ほとんど力を入れていない軽い右ストレートを、岩村のがっしりとした顎(あご)めがけて放(はな)った。ソフトグローブがカミソリで髭(ひげ)でも剃るように顎の先をきれいにかすめた。 「決まったな」  タツオがそういうと間髪をいれずにクニが返事をした。 「なんでだよ、あいつ100キロ以上ある……」
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