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 クニの言葉の途中でずるずると岩村が倒れ始めた。身体から骨が抜けて、肉の塊(かたまり)にでもなったように崩れ落ちていく。顎の先端への打撃は梃子(てこ)の原理で最もおおきく脳を揺さぶることができる必殺のパンチだ。ジョージの右は最少の力で岩村の脳を頭蓋骨(ずがいこつ)のなかで激しくシェイクしている。脳が頭蓋骨の壁に何度も叩きつけられるのだ。このパンチでピンポイントで急所を撃ち抜けるなら、小学生の力でも大男を倒すのに十分だった。  ジョージは倒れた相手を確認すると一礼して、試合終了の宣告を待たずに青い畳をおりた。審判が意識を失った岩村を揺さぶり、起こそうとしている。巨漢はなかなか目を覚まそうとしなかった。第1試合に続いて担架が運びこまれ、ようやく審判の少年が叫んだ。 「第3試合、勝者・菱川浄児」  カザンの凄惨さと異なる華やかな勝利だった。大講堂の興奮は最高潮に達し、女性客から試合場に無数の花束が投げられた。予選で敗れた3組の少年たちが花を拾いに走った。
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