第1話/夢の中での始まりと帰路

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 ただ涙腺を緩ませて泣き始めた女の自分に、別れを言う気持ちにはなれなくて……。  貰い泣きするところをグっと我慢したところで、不意に思い出した名を後ろに控えていた男に言う。 「行くぞ、」 「はい、御主人」  鳳炎と呼ばれた男は、俺の呼びかけに応じると、着ていた黒いロングコートを脱ぎ捨て、赤きドラゴンと白鳥の二対の翼を広げた。 「私の名がゲートを開く鍵となっています」 「だから名乗らなかったのか」 「あなたの記憶は、守られているだけで失ってはいません」 「それ、誰かの受け売りだろ?」  大きく翼を広げた鳳炎の姿は、白いロングトップを着ていることもあって神々しく。何でも出来るような錯覚を生み出す。  でも実際は、誰かの協力失くしては夢の世界に入る事も出来なければ、魂だけとなった俺を見つけ出すことは出来ない。 「ウィズドゥレッドには気を付けて!」  自分だと思い込んでいた、冴えないセーラー服の眼鏡女子。基、齋 英里が涙を拭って、全てを理解しているように忠告を口にして手を振る。 「分かってるよ!」  この時、どれだけの記憶があったのか分からないけど……。英里が言わんとすることは、なんとなく理解していた。  別れ際に右手を軽く振り返すと、再び右手を差し伸べた鳳炎の手を強く握り返す。  ――これで俺の夢は、       終わりを告げるのだ――  アイコンタクト交わし、互いの繋がりを確かめたところで、一際大きく翼を広げた鳳炎が風を巻き上げて天高く舞い上がった。 image=491464412.jpg
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