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ただ涙腺を緩ませて泣き始めた女の自分に、別れを言う気持ちにはなれなくて……。
貰い泣きするところをグっと我慢したところで、不意に思い出した名を後ろに控えていた男に言う。
「行くぞ、鳳炎」
「はい、御主人」
鳳炎と呼ばれた男は、俺の呼びかけに応じると、着ていた黒いロングコートを脱ぎ捨て、赤きドラゴンと白鳥の二対の翼を広げた。
「私の名がゲートを開く鍵となっています」
「だから名乗らなかったのか」
「あなたの記憶は、守られているだけで失ってはいません」
「それ、誰かの受け売りだろ?」
大きく翼を広げた鳳炎の姿は、白いロングトップを着ていることもあって神々しく。何でも出来るような錯覚を生み出す。
でも実際は、誰かの協力失くしては夢の世界に入る事も出来なければ、魂だけとなった俺を見つけ出すことは出来ない。
「ウィズドゥレッドには気を付けて!」
自分だと思い込んでいた、冴えないセーラー服の眼鏡女子。基、齋 英里が涙を拭って、全てを理解しているように忠告を口にして手を振る。
「分かってるよ!」
この時、どれだけの記憶があったのか分からないけど……。英里が言わんとすることは、なんとなく理解していた。
別れ際に右手を軽く振り返すと、再び右手を差し伸べた鳳炎の手を強く握り返す。
――これで俺の夢は、
終わりを告げるのだ――
アイコンタクト交わし、互いの繋がりを確かめたところで、一際大きく翼を広げた鳳炎が風を巻き上げて天高く舞い上がった。
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