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「ごめんなさい」
素直に謝罪すると、鳳炎が少し頭を下げて応える。
(謝らなくても……。英里さんの記憶しか無いのなら当然の反応ですよ)
「それは、英里としての記憶以外に記憶があるって聞こえるけど……」
(その通りです)
自覚はないが、どうやら的を射た発言をしたようだ。頭を上げた鳳炎は、凛とした姿勢で言葉を続ける。
(これから貴方は、再び鳳龍 雄として生きることになるんですよ)
――はい?
聞いたことの無い本名。
それに<再び>とは、どういう意味なんだろうか?
(鳳炎。悪いけど、意味深すぎて怖いよ)
ここでテレパシーが本当に通じるのか使ってみた。今の自分には、何が真実で何が虚無なのか分からない。
だから、もし鳳炎に対してテレパシーが通用しなかったら疑うつもりでいた。いや、むしろ鳳炎を疑いたくてテレパシーを使ったのかもしれない。
暫く目を合わせて黙っていた鳳炎だが、何事も無かったように会話を続行する。
(今は、疑うだけ疑って結構です。過去の御主人は、強い力と権力を持っていました。けれど記憶も無く、権力と実力を振りかざしては混乱を招くだけです。くれぐれも人前で本名を名乗る事だけは避けてください。今いる世界は、英里さんとして生きていた地球と呼ばれる星が存在する世界でも、私達が産まれ育った母なる世界でもありません。ただ幸いにも、私達が生まれ育った母なる世界を知る者が生活している異世界なだけのです)
――へっ?
(……それって、どういう……)
自分が産まれ育った世界とは異なる世界があるだろうとは、少なからず考えてみた事はある。
でも英里として生きていた地球ではなく。
ましてや鳳炎達の世界でもないのに、鳳炎達の知り合いがいる異世界って……。
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