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第3話/現実と理想のギャップ
「お待たせ。夕食を持ってきたよ」
「夕食?」
前回と同じようにノックしてから入室してきたウォームの発言に、時間感覚すら失っている俺は、驚いた様子で振り返った。すると部屋にあった楕円形ののテーブルに、運んできた食事をトレイごと置いたウォームが応える。
「陽が昇る事がない土地だから、僕らもタイマー管理されている通路の明るさで把握してるぐらいだけどね。食事しながらでいいから僕の話、聞いてくれるかな?」
「もちろん」
「良かった。どうやら僕の雇い主は、君の事を知ってるみだいだよ。近い内に会いたいってさ」
――え?
それは、ウォームが着席したことを見届けてから向かい側に腰を落とした時だった。
例の如く記憶にない俺は、戸惑いの色を浮かべて鳳炎にアイコンタクトを送ると、鳳炎が俺とウォームのあいだにあった椅子を止まり木変わりにして尋ねる。
(申し訳ありませんが、名前に憶えがありません。フルネームを教えてくださいませんか?)
「あぁ、スフォーム=イリアだよ。魔族だから、案外話を合わせてるだけかもしれないけどね」
「嘘を吐いているかもしれないってこと?」
本人に会う前から疑うのはよくないと思うが、物語の悪役に抜擢されやすい魔族相手なら有り得る話かもしれない。
不安に思って二人に尋ねると、何とも言えない表情で鳳炎と顔を見合わせたウォームが俺に尋ねる。
「失礼だけど魔法は?」
(使えるとは思いますが、現時点では無理がある思いますよ)
「だよね」
俺に代わってテレパシーで返答した鳳炎の言葉に、苦笑い混じりに納得するウォーム。
ファンタジー展開的に考えると、突然使えても可笑しくはない流れではあるのだが……。
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