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「うなされていたんですか……僕は」
「ええ。私が来た時には顔を真っ青にして」
「そうなん……ですか……」
「なによ。その他人行儀な感じは。自分のことなのに」
華菜は呆れた様子で言ってくる。しかしさっき見ていた夢が気になったのか優太は下を向いて考え込む。
――あの夢は一体……。見たことのない場所で血を流す女性。僕には覚えがない。どうしてこんな夢を毎回みるんだろう。
赤い血を流した女性の夢を優太は最近よく見ている。だからそのことが気がかりでしょうがない。だって自分には覚えがないのに血を流した女性が自分の名前を呼んで来たらそれは誰だって恐ろしくなるに決まっている。
――僕はもしかしてあの女の人に会ったことがある? でも……。
「こら! 難しい顔しない」
「痛っ……」
眉を中央に寄せて考えているとその様子を見ていた華菜が頭を軽くチョップしてきたかと思うとニッコリ笑った。
「あんまり深く考えすぎると疲れるわよ。ただでさえ優太は体力がないんだから」
「華菜さん、ひどいです……」
「ひどくない。それよりこれ」
へこむ優太を無視し、バッグに手を入れて取り出したのは封筒に入った手紙みたいだ。
「病院から?」
「そう。この前の健康診断の結果じゃないかしら」
優太は渡された封筒の封を開けて紙を取り出した。そしてそこに書かれていたのは、
「精神科カウンセリングの進め……」
「また来たの? 毎回よくひっかかるわね」
「……すみません。これは努力してもうまくいかないんです」
――そう……これだけはいつもうまくいかない。
優太は子供の頃、或る事件に巻き込まれた。その時のことがトラウマになってしまい、大人になった今でも精神の病気にかかっている。
――僕はどうしたら強くなれるんだろう……。
そんなことを考えるといつも頭に痛みが走る。自分は弱い。そのことが身に染みて分かる。そんな気がしていた。
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