第1章

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二軒目は二人ともアルバイトの身ということで、安さが売りの居酒屋にすることにした。 店内は大学生の客が多く、とても賑やかだった。 店員に案内され、席に着くと正面にニコニコしている長谷部の顔があった。 何か、正面て緊張するな。。 かといって二人しかいないのに、隣同士で座るのは明らかにおかしいし。。 なんてことを、考えていると長谷部はまたメニュー表とにらめっこを始めた。 その姿を見て思わず、笑ってしまった。 「どうかしました?」 長谷部は、不思議そうに聞いてくる。 「いえ、何でもないです。飲み物決まりました?」 「んー、麦焼酎の水割にします。」 (この人、すげーな) 店員さんにハイボールと麦焼酎の水割を頼んで、一息ついた。 「僕が入って3か月ですけど、久瀬さんとこうやって話すの初めてくらいですよね。」 長谷部は優しい表情を浮かべながら言った。 「そうですね。」 少しきまずかった。それは、自分が明らかに長谷部を避けていたから。 「嫌われてるのかと思ってました。」 へへっと長谷部は笑った。 「まさか!!何というか、何を話せばいいのかわからなくて。」 慌てて長谷部の言葉を否定する。 「そうですか。嫌われてなかったなら、良かった。」 本当にホッとしたように言う。 「さっきの居酒屋で言ってた、2年前の彼女とはどうして別れたんですか?」 その質問には答えづらかったが、今日なら話せる気がした。 「それは。。俺が就職できなかったから。。」 言葉が詰まる。 それでも長谷部は黙って聞いてくれている。 「大学2年生のときから、つき合っていたんですけど、お互い就職活動を向かえて。。彼女の方は3年生の終わりにはもう就職先が決まっていて。。俺は結局、就職先が決まらないまま卒業してしまいました。。」 話していると、だんだん当時のことを思い出して辛くなってくる。。 ふと、長谷部を見ると真剣ながら優しい表情で聞いている。 その表情を見ると少し安心した。
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