第1章

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俺はゆっくりと話す。 「卒業した後も、就職活動をしながら彼女とつき合っていたんです。それでもなかなか就職先が見つからなくて、そうこうしていると、あっという間に1年が経って、彼女に言われたんです『他に好きな人ができた』って。。」 一回深呼吸を挟んだ。 「就職もしてない俺が引き止められるはずもなく、素直に彼女との別れを受け入れました。」 いつからだろう、自分の心のどこかで雨が降りだしたのは。。 その雨は今も降り続けている。 「いや、違う。俺の方が彼女を鬱陶しく思っていたのかもしれません。別れ話しをされたとき、救われた様な気がしました。。これで少し気が楽になると。。俺は最低な男です。。器のちっさい男です。。」 そう言ったとき、長谷部が口を開く。 「いけません。」 長谷部の口調は少しきつめになっていた。というより、少し怒っている様な。。 「すみません。。嫌な話しを聞かせてしまいましたね。せっかくの飲みなのにこんな話し。」 必死に笑顔を作って、慌てて違う話題を探した。 「そうじゃない。自分を責めてはいけない。」 長谷部の眉間に皺がよっていた。 「いや、でもそもそも就職できなかった俺が悪いし、そのことで彼女に迷惑をかけたのも事実ですし。。」 見たことのない長谷部の顔に、俺は完全に怯んでいた。 「確かに、彼女に迷惑をかけたかもしれない。でも、そのことで今もなお自分を責める必要はない。卒業した後も、彼女のために就職活動頑張ったんだろ?彼女も、もう新しい道を進んでるんだろ?自分を責めるのはもうやめろ。」 長谷部が敬語を使うのを忘れている。 そこまで真剣に聞いてくれたのか。 「はい。。」 俺は少し泣きそうだった。。誰にも言えなかった。。誰かに話して責められるのが怖かった。。 長谷部はいつもの優しい表情に戻った。 「話し聞けて良かったです。久瀬さんのことを少し知ることができたので。」 ふいに長谷部の手が俺の方に伸びてきた。 え? そう思うと同時に、長谷部は俺の頭に手を乗せ、優しく撫でてきた。 何だコレは???
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