第1章

2/17
前へ
/64ページ
次へ
「15時までにこれよろしく。」  俺は、就職活動に失敗した、現在25歳のフリーター。スーパーで惣菜を作るアルバイトをしている。 「はい。」 時給780円でも遣われるだけ遣われる。 それでも、生きていくためには仕方がない。   パートのおばちゃんと話すのは楽しいし、夕方から来る高校生と話すのは、自分の昔を思い出す様で懐かしくて好きだ。 (もうこのままでもいいかも) ぬるま湯に浸かると抜け出すには難しい。  楽しく仕事出来ればそれでいいか。。そんな風に思い始めた頃だった。 「久瀬君、こちら今日から入った長谷部君。色々教えてあげてね。」 「長谷部です。よろしくお願いします。」 そう挨拶して、軽くお辞儀した長谷部という男は、自分と同じ歳くらいの爽やかな男だった。 「よろしくお願いします。」 俺はこの手の人間が苦手だった。25歳で一度も就職をしていないという後ろめたさが、そう思わせていた。 初日は坂井さんという女性のパートの人が、長谷部を教えていたので、あまり関わること無く一日を終えた。 「お疲れ様でした。」 俺はタイムカードを切って、更衣室へ向かった。 (憂鬱だ。。) 長谷部は明らかに学生ではない。恐らく転職中に空いた時間、短期で入って来たのだろう。 今までにもそういう人はいた。そういう人とは大体、まず、年齢の話しになり、その次に、就職しないのかという話しになる。就職する気が無いわけではないが、そういった話題になると気が重くて仕方がなかった。 はぁ。。 溜め息を吐きながら着替えを終え、更衣室を後にする。 裏口のドアを開けると、雨が降っていた。 雨は嫌いだ。 俺は、肩を落として帰路に着いた。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加