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駆逐艦『雷』.甲板部
「━━総員直ちに全力を以て、英兵を救助せよっ!!」
乗組員達の憎悪に染まった声が飛び交う中で放たれた工藤艦長の号令は、甲板上を突き抜け、乗組員達を沈黙させた。
「連中に制裁を加えろ」「情けなど無用」「殺してしまえ」等という言葉に耐え兼ねて、それらから耳を閉ざしていた私に対しても、芯にまで響いたその声。
呆気に取られて工藤艦長へと視線を向けてみる。
「……か、艦長……何を仰って……?」
そんな中、ヨロヨロと一歩前に出たのは、兄弟と友人を失ったことで復讐に燃えていた前原だった。
「連中を助けてしまったら……いずれまた我らの脅威となります!祖国にいる家族達にもその危害が及ぶかもしれない…………それ以前に、ここはまだ危険海域です!
米蘭の潜水艦が潜んでいる可能性が拭えない中で救助活動なんていう無防備極まりない行動に出て、もしその隙を衝かれでもしたら……」
彼の憎悪はともかく、言っていることには一理あった。
英国兵士は現時点では間違いなく日本の敵であり、さらに現在地にあたる海域には米蘭の潜水艦が潜んでいるという情報が寄せられており、私達自身、それに対し目を光らせておく為の警戒任務に就いていたのだ。
その様な状況下で救助活動を行うということは、その分そちらに人員を費やすことになり、それは即ち周囲への監視の目が減少し、敵潜水艦に隙を見せることへと繋がりかねないということとなる。
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